職場では日々多くのコミュニケーションが行われていますが、その重要な一環としてフィードバックがあります。
フィードバックは相手の行動や結果に対する評価や感想を伝え、成長や改善に繋げる役割を持っています。本記事では、フィードバックの種類や目的、効果的なフィードバックの与え方について解説します。
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フィードバックとは?
フィードバックとは、相手の意見や行動、成果などに対して自分の意見や感想を伝えることです。フィードバックには肯定的なものと否定的なものがありますが、効果的なフィードバックとは相手の行動そのものではなく、その結果に着目し、建設的な提案をすることが重要です。
具体的には、相手の長所を褒め称える肯定的フィードバックや、相手の意図は良いが方法を変えたほうがよいといった前向きな提案をする否定的フィードバックが効果的です。
フィードバックの目的は相手の気づきや学びを促し、良好な人間関係を築くことにあります。相手の感情を害することなく、適切なタイミングと言葉遣いでフィードバックをする能力が求められます。
フィードバックの種類
フィードバックについて考えた際に、いくつかの分類ができるかと思います。一般的に考えられるフィードバックといえば、相手に対して肯定/否定の立場を取るケースが多くなるように思います。
しかしながらフィードバックの目的としては、肯定/否定のスタンスが重要なのではなく、フィードバックを通してより業務の品質を高めていくことが本質的なものです。肯定/否定のフィードバック2種類に加えて、理想のフィードバックを「建設的フィードバック」と表現し、それぞれ解説していきたいと思います。
肯定的なフィードバックについて
肯定的なフィードバックとは、相手の長所や良い点を認め、賞賛や励ましの言葉を伝えることです。
肯定的なフィードバックは、相手の具体的な強みや良い点を認識し、謙虚な気持ちを持って適切な言葉で伝えることが大切です。これにより、相手の成長を後押しするだけでなく、良好な人間関係の構築にもつながるでしょう。
メリット
肯定的なフィードバックの第一のメリットは、相手の自信や意欲を高めることです。相手の長所や成果を具体的に褒めることで、相手は自分の行動の正当性を実感します。その結果、働き甲斐や達成感が生まれ、業務へのモチベーションが向上します。
また、上司と部下の関係性を良好に保つ効果もあります。上司からのねぎらいは部下の愛社精神を育み、管理職と一般職員の信頼関係の構築につながります。
さらに、相手の行動の良い点を強化する働きがあるため、望ましい行動の習慣化にも役立ちます。職場全体のパフォーマンス向上に寄与できる好循環を生み出すことができるのです。
デメリット
過度に肯定的なフィードバックになってしまうと、弊害が生じる可能性があります。肯定的すぎるフィードバックでは、相手の改善が必要な点が見過ごされてしまうことがあります。また、相手を甘やかし過ぎることで自己満足に陥り、向上心を減退させる恐れもあります。
相手の実力以上に評価することは、かえって自信過剰に陥らせる結果となる可能性があります。他のメンバーとのバランスを欠いた肯定的なフィードバックは、職場内で不公平感を生む原因にもなりかねません。
さらに、形だけのほめ言葉が多用されると、その重みが薄れてフィードバック自体の効果が減じてしまうこともあるでしょう。肯定的なフィードバックには適度なバランスが必要であると言えます。
否定的なフィードバックのメリット・デメリット
否定的なフィードバックとは、相手の課題や改善点を指摘するものですが、行う際には注意が必要です。相手の行動や能力、仕事ぶりに対して批判的な評価を付けることは、相手を委縮させ、モチベーションを下げ、関係性を損なう恐れがあります。
メリット
相手の改善点を明確に指摘できることで、スキルアップにつながることです。また、間違いを正す機会を提供することで、同じ失敗の繰り返しを防ぐこともできます。競争心や危機感の喚起にも効果があるでしょう。
肯定的なフィードバックよりも、相手の印象に残りやすいため、有効に活用することで業務の改善に繋がります。反面リスクも大きくなりますので、デメリットの理解も重要です。
デメリット
否定的過ぎるフィードバックは相手を萎縮させてしまったり、業務への意欲をそぐ恐れがあります。単なる批判に終始すると効果は薄れ、人間関係の悪化にもつながりかねません。過度な否定は避けつつも、改善策を提示する建設的なフィードバックを心がけることが大切だと言えます。否定的フィードバックには扱いに注意が必要です。
建設的なフィードバックを目指すには
建設的なフィードバックを目指すためには、相手の感情を害することなくフィードバックできるよう配慮することが重要です。
具体的には、相手の長所を先に褒める等、肯定的な側面に触れることから始めることが望まれます。改善点の指摘には、一方的に押しつけるのではなく相手の意見を聞きながら、ともにより良い方法を考える姿勢が必要です。
否定的な点は可能性を信じて伝えるなど、相手の成長を尊重する温かな視点を持つことも大切です。
適切なタイミングと場所の選択も、建設的なフィードバックには欠かせません。「肯定的な側面に触れる」「押し付けない」「否定的な内容は成長可能性もセットで伝える」などの配慮があれば、フィードバックが信頼関係と成長の両方を高める良い機会となることでしょう。
フィードバックのタイミング
フィードバックのタイミングとしては、できるだけ早いタイミングでフィードバックをすることが望ましいです。出来事が新しいうちにフィードバックすることで、相手の記憶が鮮明で理解しやすくなります。
一方で、ネガティブ・ポジティブ問わず、出来事の直後の興奮した状態では冷静なフィードバックが難しい場合もあります。その場合は、数日程度の時間をおくことで双方冷静に出来事を振り返ることができ、建設的なフィードバックが可能になるでしょう。相手の気持ちにも配慮が必要です。成功体験後には褒めるフィードバックが効果的で、失敗体験後に批判的なフィードバックは避けた方がよいでしょう。
そしてフィードバックの頻度にも注意が必要です。日常的な関わりがある同僚には頻繁にフィードバックする一方、部下には成長の節目にフィードバックするなど、相手との関係性に応じたタイミングを考えることが重要です。
階層別フィードバックのポイント
建設的なフィードバックの文化が根付いた組織は、コミュニケーションが活発で全体の士気や成長意欲が高くなります。
そのような活気ある状態を目指すためにフィードバックのポイントを抑えることが重要です。上手なフィードバックのポイントとして、フィードバックの相手となる人の階層にも注目するとよいでしょう。フィードバック相手の階層に応じて留意すべきポイントについて解説します。
上司へのフィードバック
上司へのフィードバックは、頻度としては多くないかもしれません。しかし、「昨日のプレゼンテーションで、私の●●の部分はどうだったかな?」などと、突然のフィードバックが求められる可能性があります。少ない機会だからこそ、上司へのフィードバックのポイントは抑えておく必要があるといえるでしょう。
自分より上の立場にあたる上司へのフィードバックについてのポイントをまとめます。
言葉遣いに気を付ける
どの階層にも言える当たり前のことですが、上司の立場を尊重、敬意を表した言葉遣いを心がけるのがよいでしょう。何かをお願いする際にも、命令形は避けて「ご提案」「ご意見」などの表現を使うのがポイントです。
直接の批判は慎重に行う
忌憚なきフィードバックは上司に気付きを与えられる可能性がある一方で、方針などに対する直接の批判は控えめにすべきかもしれません。組織の方針については、自分が知らない範囲の背景や事情がある可能性もあります。
一方で、プレゼンテーションなど業務上のフィードバックについては、率直な意見を求めている可能性があります。客観的に見てどのようであったのか、良い部分・改善できる部分をそれぞれシンプルに伝えるところから始めるといいでしょう。
批判的な内容のフィードバックをする場合は、代替案や改善案、どうすればその方針を実行できるのか、などのアイデアもセットで準備してください。
成果は具体的に賞賛する
上司の長所や成果を褒める場合は具体的にするとよいでしょう。「このプロジェクトの●●でのご判断は的確でした」などと評価することで、関係性の構築につながると共に、上司の自己効力感の醸成などに繋がります。
ネガティブな出来事はフォローから
ミスや失敗に対しては、上司のフォロー役に回ることが大切です。非難するのではなく「自分に何ができたか」「次に繋がるアイデア」など、改善策だけでなく自分にフォローできるタイミングなどがなかったかなどを伺うと具体的なアクションに繋がる建設的なコミュニケーションとなります。
上記のように、上司に対するフィードバックは、上手く行うことで信頼関係を構築でき、上司のマネジメントスキルのブラッシュアップや、人間関係構築に繋がります。
同僚へのフィードバック
同僚に対するフィードバックは対等な立場であることを意識し、尊重する態度であることがポイントです。
まずは相手をねぎらう
フィードバックの前に、相手をねぎらうことから始めると、否定的なフィードバックも受け入れやすくなります。肯定的なフィードバックを行う場合でも、自己肯定感をより高める効果もあるでしょう。
改善案は一緒に考えるスタンスを
フィードバックの中で、改善すべきところについて話す場合、改善を一方的に押しつけるのではなく、相手の意見を聞きながら一緒に解決策を考える姿勢が大切です。
過去ではなく未来にフォーカスする
過去の失敗についてフォーカスすると、フィードバックが精神的な負荷をかけてしまう可能性があります。過去の失敗に触れる場合でも、どうしたら防げたのかという解決策や、今後の成長につながる前向きなフィードバックをすることがポイントです。
同僚同士という関係性は、言いたいことも言いやすいですが、内容によっては相手にショックを与えてしまうこともあるかもしれません。信頼関係を築くことを前提として、フィードバックを通してお互いの成長を意識することが大切です。
部下へのフィードバック
部下である立場の人材は、未来の組織を担う人材です。基本的には部下の可能性を信じ、前向きな視点でフィードバックしましょう。成長過程に寄り添う助言者となることが大切です。
部下の自発性を促す意識を
部下へのフィードバックは、ポジティブ・ネガティブどちらの内容でも、命令や指示ではなく、働きかけるような伝え方が重要です。どうしたらより良い方向に自発的に動くかを考えて、伝え方を工夫することが大切です。
フィードバック内容は具体的に
上司・部下の立場でフィードバックをする場合、ただでさえ部下は緊張状態にあることが多く、上司の言葉を敏感に受け取りやすくなっています。その際に、フィードバックの内容を具体的に行い、部下本人ではなく、行動に対してのフィードバックをするとよいでしょう。
また経験の少ない若手社員の場合、抽象的なフィードバックでは伝わらない可能性があります。他の階層に対するフィードバックよりも内容の具体性を高める意識を持つとよいでしょう。
ポジティブな内容であれば、自分の行動や思考により自信を持つことができ、自己効力感に繋がります。ネガティブな内容であっても、行動にフォーカスすることで、部下の人格否定にはならず「どうすれば良かったのか」と次に繋がる考え方になりやすいです。
長期的な目線で成長を期待する
部下へのフィードバックでは、教育的な視点を持ち、部下の成長過程を理解してください。一朝一夕で人は育ちません。いきなり完璧を求めるのではなく、着実なステップを理解し大切にしてください。
ステップの解像度が高ければ、現在地と次に進むためのポイントに目を向けやすくなり、部下の目標構築も取り組みやすくなります。部下との信頼関係の構築に努め、フィードバックが生産的な学びにつながる環境を提供しましょう。上司としての温かみと力量が、部下へのフィードバックには不可欠です。
フィードバックにおける言葉遣い・態度の留意点
フィードバックは相手に意見を伝えるコミュニケーションですので、言葉遣いや態度によっては相手の気分を害したり、ハラスメントだと思われる可能性があります。具体的なフィードバック時の言葉遣い・態度のポイントについて解説します。
言葉遣いや伝え方のポイント
- 相手の感情を害する言葉は避け、常に礼儀正しい言葉遣いを心がける
- 相手の長所を褒める場合は具体的に行う
- 改善点は一方的に指摘するのではなく、「もっと良くするには」と前向きに投げかける
- 否定的な点は短くわかりやすく。長く批判すると相手の姿勢が硬化してしまいます
- 評価する場合は行動ではなく結果に着目。「失敗した」ではなく「目標に届かなかった」などの表現を。
- プレッシャーを与えるため質問責めはしない
態度のポイント
- 素早い反応は控え、ゆっくりと熟考した姿勢を店ながらフィードバックを行う
- 個室など第三者の耳に入らないように注意する
- 高圧的な態度はしないこと
- 否定や失敗についてフォーカスしなければならない場合、資料などを用意して客観的に振り返られるようにする。目線を外す機会にもなりプレッシャーを与えすぎない環境を作れる
フィードバックスキルの向上に大切なものは?
フィードバックスキルを向上させるには、日頃から相手の立場に立って考える習慣をつけることが重要です。相手の気持ちを汲み取る力が、フィードバック力の基礎となるからです。
また、実際の業務の中で小さな成功体験を積み重ねることも大切です。同僚とのロールプレイングや外部の研修に参加する等、実践を通じてスキルを高めることができます。自分への振り返りや上司からのアドバイスにも耳を傾け、弱点の改善に取り組むことが大切です。
フィードバック力は、高度な専門的な知識は不要で、誰にでも伸ばすことのできる一方で、人材のスキルアップや組織力の醸成に繋がる重要なスキルの一つです。
役職者も一般社員も、フィードバックのスキルを磨き、マネジメント力を高める意識を持っていきましょう。
オンライン環境でのフィードバックのコツ
昨今、オンラインミーティングを行う機会も増えているかと思います。オフラインとオンラインではフィードバックで意識すべき点が若干異なってくるため、ポイントを理解しておきましょう。
まず、オンラインでは表情やジェスチャーの伝わり方が限定的になりますので、言葉遣いにはより一層の注意が必要です。相手の気持ちを害さないよう、丁寧な言い回しを心がけましょう。肯定的なフィードバックは具体的に、否定的な点は短めに伝えることをおすすめします。スタンプ機能でリアクションの補助をしてみるのもいいかもしれません。
相手との信頼関係が構築しづらいと言われるオンライン環境だからこそ、相手への理解を示す姿勢が大切になります。素早い反応は避け、キャッチボールをするようなテンポでフィードバックすることを意識しましょう。
さらに、原則としてオンライン環境で特別な理由がない限りはカメラをオンにして、双方の表情やリアクションが伝わるように確認しながら進めてください。
チャットやメールでは誤解を避けるために確認の文言を入れる等の工夫も必要です。
オンラインコミュニケーションの特性を理解し、限られた手段の中で信頼関係を築くフィードバックが重要です。
まとめ
フィードバックは、相手の行動や結果に対する評価や感想を伝える重要なコミュニケーション手段です。上手にフィードバックを行うことは、相手の成長を支え、信頼関係を構築するのに役立ちます。
フィードバックでは、相手の立場に立って考える姿勢を持ち、建設的なフィードバックができるようにしましょう。言葉遣いやタイミングに注意を払い、否定的な点も前向きな視点で伝えることを心がけます。
フィードバックは対話を通じて磨かれるスキルです。実践を重ねることで、職場のコミュニケーション能力を高めることに繋がっていきます。
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