近年、企業経営において「人的資源」の重要性が高まっています。社員一人ひとりの能力を最大限に発揮させることが競争力の源泉となるため、注目を集めるのがHR(Human Resources)です。
そこで本記事では、HRについて人事部との違いや目的・役割、求められるスキル、業務内容など詳しく解説します。
経営者や管理職の方にとって、自社の人材戦略を考える上で参考になる情報が多数含まれています。HRの本質を理解し、能力のある社員を育て上げるマネジメントのあり方を考えるヒントにして頂ければ幸いです。
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HR(ヒューマンリソース)とは?
HRとは、Human Resourcesの頭文字をとった言葉で、「人的資源」を意味します。企業において、人材こそが最も重要な経営資源であるとの考え方に基づいています。
具体的には、採用、教育訓練、配置、評価、報酬など、人材に関わる管理業務を戦略的な視点で行うことで、個人と組織の双方がwin-winの関係を築き、組織力を最大化することを目指します。
この「人が資源である」との発想は、Taylorの科学的管理法に代表される従来の人材観とは一線を画すものです。知識労働の比重が高まる現代において、HRの考え方はますます重要性を増していると言えます。
人事部との違い
人事部は主に、社員の労務管理や給与計算、勤怠管理などの行政業務を担当する部署です。採用活動や研修制度の策定なども行いますが、戦略性はあまり重視されていませんでした。
一方、HRは人事部の業務を内包しつつ、中長期的な視点から人材育成方針を策定したり、企業戦略に沿った採用計画を立てたりするなど、より戦略的な人材マネジメントを行う部署です。
人事部がルーチンワーク的な業務に特化しがちなのに対し、HRは経営戦略と連動した人材施策を生み出すことが期待されています。企業価値を生み出すための人的資源の最適な活用が目的といえます。
このため、HR部門の設置が進み、人事担当役員(CHRO)を置く企業も増えるなど、HRの位置づけが高まっています。
HRの目的・役割について
HRの最も大きな目的は、企業が掲げるビジョンや経営戦略を達成するために、必要な人材を採用・育成し、最大限に活用することです。
具体的な役割としては、採用計画の立案、採用活動の実施、社員教育の方針策定、研修プログラムの開発、人事考課の実施、労使交渉、労務管理、給与体系の設計、職場環境の整備など、人的資源に関わるマネジメント全般を担っています。
近年はグローバル化の進展により、海外現法の人材管理も重要な役割となっています。また、IT化による業務効率化や、データを活用した採用・配置・教育など、HRテックへの対応も求められています。
人材こそが企業にとって最重要の資産であるという考え方
HRに求められるスキルと心構え
HRに必要なスキルとマインドセットについてまとめると以下の通りです。
◆HRに求められるスキル
- コミュニケーション能力: 採用面接や社員との対話で必要
- 交渉力: 労使交渉などで活用
- 教育力: 研修プログラムの企画・運営能力
- データ分析力: 業務データを解析しインサイトを得る力
- 戦略思考: 人材戦略を立案し実行できる力
◆HRに必要な心構え
- 社員の成長を第一に考える: 能力開発支援が人材育成の核
- 公正かつ公平な運用を心がける: 不公平はモチベーション低下につながる
- 社員の立場に立つことができる: pores合うという姿勢が大切
- 個性を理解し尊重する: 一人ひとりに合った施策が必要
- 人材を大切にする文化を醸成する: HRの仕事はその文化作りから
上記のスキルと心構えを兼ね備えたHRが、社員の能力引き出しと組織の発展に寄与できると言えます。
HRの業務内容について
HRの主な業務内容は以下の通りです。
・採用計画の策定
企業の中長期的な経営戦略に基づき、必要な人材像と人数、採用時期を計画する。求める人材に応じた採用方法を検討する。
・採用活動の実施
募集要項の作成、採用広報、適性検査の実施、面接など一連の採用プロセスを進める。採用サイトの管理や、学内セミナー等の実施も行う。
・教育訓練の方針策定
社員教育の理念や基本的な枠組みを策定。教育内容は時代の変化に合わせて見直していく。
・研修プログラムの企画・実施
階層別、職種別、テーマ別などの研修を企画・運営する。効果的なプログラムを提供する。
・人事考課の実施
評価基準の設定、評価の実施、フィードバックを行う。考課結果は賃金や昇進に反映させる。
・労務管理
賃金体系の設計、勤怠管理、休暇や福利厚生の管理・運用を行う。
・給与制度の設計
賃金体系の構築。評価と連動した賞与の決定。
・労使交渉・協議
労働条件の決定や変更にあたって、労働組合と交渉や合意形成を図る。
このように、採用から評価、労務管理と、人材マネジメントの中核的な業務を担っています。
HRを組織化したい方へHRの将来性は?
HRの将来性として最も期待されているのが、デジタル化の進展に伴うHRテックの浸透です。
これまで人的作業が中心だった採用や配置、研修、給与計算などの分野で、AIやRPAを活用した自動化が進むことが予想されます。業務効率化とコスト削減が実現できるでしょう。
また、社員のスキルや適性など、個人データを蓄積・分析することで、データドリブンな人事施策の実施が可能となります。採用や配置、教育を個人に最適化できるなど、生産性と業績の向上が期待できます。
さらに、テレワークの拡大に対応した、場所にとらわれない柔軟な人事制度の構築が必要となるでしょう。
デジタルトランスフォーメーションの波はHRにも押し寄せており、その変革の主導者となることがHRに求められる将来像といえるでしょう。
人的資本開示の義務化とHRについて
2022年6月、金融庁は上場企業に対して、2023年3月期決算から人的資本に関する情報開示を義務付ける方針を打ち出しました。
開示が求められるのは、人材育成の方針や教育研修費用、労働安全衛生への取り組み、ダイバーシティの推進など、人的資本に関わる7分野19項目に及びます。
これにより、人件費以外の定量・定性情報を投資家に開示することで、人材育成能力や生産性向上力などの見える化が進むと期待されています。
HR部門はこの開示作業の中心となるため、人事関連データの収集・分析能力がこれまで以上に重要となります。また、投資家の視点も意識した人材戦略の立案が求められるなど、HRの役割がより大きなものになると考えられます。
まとめ
以上、HRの定義から目的・役割、求められるスキル、業務内容といった基本的な概要について記述してきました。HRは単なる人事労務業務にとどまらず、中長期的な視点から人材を戦略的資源と捉え、その価値を最大化することを目指します。
今後はIT化の流れを取り入れ、データ分析に基づく施策やデジタル技術を活用した業務改革が一層進むものと見込まれます。しかしその根幹にあるのは、個人と組織の成長を同時に実現し、企業価値を向上させるというHRの目的であり、この考え方は変わることはありません。
人材を活かすマネジメントが企業競争力のカギを握る今日において、HRの役割と存在意義は益々高まっていくでしょう。