リテンション(Retention)とは、直訳すると「保持」「維持」を意味し、人事領域では「人材の定着」を指します。
少子高齢化による労働人口減少や転職市場の活性化により、優秀な人材の確保と維持が企業の重要課題となっています。
そこで、以下のような悩みを抱える経営者や人事担当者も多いのではないでしょうか。
・人材の流出を防ぎ、定着率を高めたい
・採用コストを抑えつつ、優秀な人材を確保したい
・社員のモチベーションを高め、活躍してもらいたい
本記事では、リテンションの重要性と企業が取り組むべき施策について詳しく解説します。
金銭的報酬と非金銭的報酬の両面から、具体的な施策のポイントを押さえることで、効果的なリテンション強化が実現できるでしょう。
リテンション施策の成果測定方法や導入時の注意点についても触れているので、ぜひ参考にしてください。
人事-研修担当者300名へのアンケート調査
リテンションとは?

リテンション(Retention)とは、直訳すると「保持」「維持」という意味で、人事用語としては「人材の定着」を意味する言葉です。
マーケティング用語としても用いられ、その場合は「顧客の維持」を意味します。
この記事では、人事用語としてのリテンションに焦点を当て、その重要性と企業が取り組むべき施策について解説していきます。
リテンションが重要視される背景

昨今、人事領域においてリテンションが重要視されています。
その背景は主に以下の3つです。
- 少子高齢化・労働人口減少による人材不足
- 転職市場活発化による人材の流動化
- 人材獲得競争の激化
それぞれ詳しく解説します。
少子高齢化・労働人口減少による人材不足
日本では少子高齢化が進行しており、労働人口の減少が深刻な問題となっています。
内閣府のデータによると、15~64歳人口は平成7(1995)年に8,716万人でピークを迎え、その後減少に転じ令和元年には7,507万人でした。
【参考】1 高齢化の現状と将来像|令和2年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府
企業にとって優秀な人材の確保がより難しくなる中、既存の人材を定着させることが重要になってきています。
新たな人材を採用・育成するコストを考えると、リテンションへの投資は企業の持続的成長に不可欠だと言えるでしょう。
転職市場活発化による人材の流動化
近年転職市場が活発化し、人材の流動性が高まっています。
厚生労働省のデータによると、常用労働者※令和4(2022)年の離職率は15.0%であり、決して無視できない数値となっています。
※常用労働者:以下いずれかに該当する労働者。
- 期間を定めずに雇われている者
- 1か月以上の期間を定めて雇われている者
特に優秀な人材ほど、転職を検討したり他社からのヘッドハンティングを受けたりする機会が増えています。
そのため、企業には人材を引き留める努力が求められます。リテンションに積極的に取り組むことで、人材流出のリスクを軽減することができるでしょう。
人材獲得競争の激化
近年は専門人材や技術者への需要が高まり、各社がより魅力的な待遇や柔軟な働き方を打ち出す動きが目立ちます。大手企業だけでなく、スタートアップや海外企業も積極的に採用活動を進めているため、転職市場は大きく拡大しています。
このような状況下では、既存の社員を流出させないことが一層重要です。早期に優秀な人材を確保し定着させる仕組みを整えることで、組織としての競争力を維持できます。
リテンションに取り組むメリット

企業がリテンションに取り組むメリットとして、主に以下の項目があげられます。
- 採用・人材育成コストの抑制
- ノウハウ・スキルの蓄積と流失防止
- 従業員のモチベーション向上
- 経営の安定化とブランドイメージ向上
それぞれ詳しく解説します。
採用・人材育成コストの抑制
新規採用には広告費や面接対応など、多くの手間と費用が発生します。さらに、新入社員を一人前に育てるまでには研修や実務を通じた指導などの時間が必要です。
定着率が高まれば新規採用の回数が減り、結果的に人件費全体を安定させやすくなります。そのため、企業がリテンションを強化することは長期的な投資効果を生み、予算面にも好影響を及ぼす重要な戦略となるでしょう。
離職率の高さは企業イメージにも影響し、新規応募を減らす要因にもなりかねないため注意が必要です。
ノウハウ・スキルの蓄積と流失防止
企業が抱える業務のコツや専門技術は、社員一人ひとりの経験から生まれます。定着率が高まるほど現場に知見が定着し、後進を育てる仕組みも強化しやすくなるのです。
逆に人材流出が続けば、ノウハウが外部へ持ち出され、組織全体の学習速度が落ちてしまうでしょう。
知識や技能が社内に蓄積されると独自の強みが形成され、市場での競争力向上にもつながります。そのため、優秀な社員が長く活躍できる環境を整備することは、企業の将来を左右する重大な要素となります。
従業員のモチベーション向上
リテンションの要となるのは、社員が働きがいや成長機会を実感できる環境づくりです。単なる給与アップだけでは満足度を持続させにくいため、自己実現をサポートする仕組みが重要になります。
職務設計やキャリアパスを明確化し、目標設定や評価を透明にすることで、社員の意欲を維持しやすくなるでしょう。さらに、定期的な面談やコミュニケーションの場を設けることで悩みを早期に把握し、モチベーション低下を防ぐ効果も期待できます。
経営の安定化とブランドイメージ向上
リテンションが強化されると人材の入れ替わりが減り、企業全体の方針や風土が安定しやすくなります。同じメンバーが長く働くことで、組織内でのコミュニケーションロスを最小限にとどめることも可能です。
安定した経営基盤は取引先や投資家からの信頼を高め、結果的にブランド力向上にも貢献するでしょう。社員が安心して働ける職場環境は求職者の関心を集めやすく、長期的な企業価値の維持にも寄与します。
企業が実施すべきリテンション施策

企業が実施すべきリテンション施策には、「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」の2種類があります。
【金銭的報酬】
- 適切な人事評価・給与体系の構築
- 福利厚生の充実
- 成功報酬の最適化
【非金銭的報酬】
- 働きやすい環境の構築
- スキルアップ・キャリア支援
- 社員エンゲージメント向上
それぞれ詳しく解説します。
【金銭的報酬】適切な人事評価・給与体系の構築
社員の努力と成果を正当に評価する人事評価制度は、モチベーション向上に直結します。公正な評価基準を設け透明性のある給与体系を構築することで、社員は自身の成長と報酬の関連性を実感できます。
これにより、長期的なキャリア形成への意欲が高まり、企業への忠誠心が強化されるでしょう。
【金銭的報酬】福利厚生の充実
充実した福利厚生は社員の生活の質を向上させ、働きやすい環境を提供します。健康保険や年金制度、育児支援など多様なニーズに対応した福利厚生を整えることで、社員は安心して働くことができるでしょう。
また、福利厚生の充実は企業の魅力を高め、優秀な人材の確保にも寄与します。
【金銭的報酬】成功報酬の最適化
成果に応じた報酬制度を導入することで、社員の業績向上を促進します。ボーナスやインセンティブを適切に設計し、個人およびチームの成果を正当に評価する仕組みを整えることが重要です。
これにより、社員は自身の努力が直接報酬に反映されることを実感し、さらなるモチベーション向上が期待できます。
【非金銭的報酬】働きやすい環境の構築
柔軟な働き方や快適なオフィス環境の整備は、社員のワークライフバランスを支援します。リモートワークやフレックスタイム制度の導入により、社員は自分のライフスタイルに合わせた働き方が可能となります。
また、オフィスの設備やレイアウトを改善することで集中しやすい職場環境を提供でき、業務効率の向上にも繋がります。
【非金銭的報酬】スキルアップ・キャリア支援
社員の成長を支援するために、継続的な研修やキャリア開発プログラムを提供しましょう。専門的なスキルを磨くための研修やキャリアパスの明確化を図ることで、社員は自身の将来像を描きやすくなります。
また、メンター制度やジョブローテーションを導入することで多様な経験を積む機会を提供すれば、組織全体のスキル向上を促進できます。
【非金銭的報酬】社員エンゲージメント向上
社員のエンゲージメントを高めるために、定期的なコミュニケーションやフィードバックの機会を設けましょう。1on1ミーティングやチームビルディング活動を通じて社員同士の連携を強化し、組織への帰属意識を高めます。
また、企業のビジョンやミッションを共有し、社員が共通の目標に向かって働く環境を整えることが重要です。
リテンション施策の効果測定と注意点
リテンション施策の効果を正確に測定し適切に改善を行うことは、持続可能な人材定着に不可欠です。効果的な指標やKPIを設定することで、施策の成果を明確に把握できます。
また、リテンション施策の導入時にはいくつかの注意点を押さえておく必要があります。
ここでは、成果測定の方法と施策導入時のポイントについて詳しく解説します。
成果測定の指標とKPI設定の方法
リテンション施策の効果を測定するためには、具体的な指標とKPIを設定することが重要です。まず、離職率や社員満足度調査の結果を定期的に分析しましょう。
次に、エンゲージメントスコアや再雇用率などのKPIを導入し、施策の進捗を数値で管理します。これにより、どの施策が効果的であるかを判断しやすくなります。
また、定性的なフィードバックも併せて収集し、総合的な評価を行うことが求められます。
継続的なデータ分析が、リテンション施策の改善につながります。
リテンション施策導入時の注意点
リテンション施策を導入する際には、いくつかの注意点があります。
まず、社員一人ひとりのニーズや状況を十分に理解することが重要です。画一的な施策ではなく、個別対応を心掛けましょう。
また、施策の透明性を確保し、社員に対して明確に説明することが信頼関係の構築につながります。
さらに、施策の効果を継続的にモニタリングし、柔軟に対応する姿勢が求められます。急激な変更や過度な負担をかけないよう注意し、持続可能な形でリテンション施策を実施しましょう。
まとめ

本記事では、企業における人材定着(リテンション)の重要性と、その施策について解説しました。
最後に、記事の内容をおさらいしておきましょう。
- リテンションとは人事用語で「人材の定着」を意味し、少子高齢化などを背景に重要性が増している。
- リテンションに取り組むメリットには、コスト抑制、ノウハウの蓄積、モチベーション向上などがある。
- 企業が実施すべき施策は、金銭的報酬と非金銭的報酬の両面から検討する必要がある。
- 具体的な指標とKPIを設定し、個別ニーズへの対応や継続的なモニタリングを行うことが重要。
- 施策を適切に実施することで、人材の定着率を高め、企業の競争力を維持・向上させることができる。
人材は企業の成長を支える重要な資産です。優秀な人材を確保し、長く活躍してもらうためには、リテンション施策に積極的に取り組むことが不可欠です。
自社の状況に合わせた施策を検討し、継続的に改善していくことで、人材の定着と企業の発展につなげていきましょう。